肺がんの治療選択肢は、小細胞肺がんであるかあるいは非小細胞肺がんであるかによって大きく異なります。小細胞肺がんの治療は、早期がん(限局型)であっても抗がん剤治療が中心になります。一方、非小細胞がんの場合には早期がんであれば手術や放射線治療が第一選択となり、抗がん剤治療は再発予防の補助的なものか、進行がん治療が対象になります。以下では、小細胞肺がんと非小細胞肺がんに分け、複数の治療選択肢の治療費構造と概算費用、および自己負担額の目安について解説します。図中の(周)は周術期の治療費、(検)は定期検査の費用、および(抗)は抗がん剤治療費を示し、そこには入院費も含まれています。自己負担額については、周術期、同時期を除く1年目、2年目以降に分けて示しています。高額療養費制度が使える場合には必ず利用するものとし、70歳未満・一般世帯の所得水準であることを前提に計算しています。入院中の食事療養費はすべて自己負担とし、差額ベッド代は一切含んでいません。さらに、1年目の定期検査は、周術期治療や抗がん剤治療が終了した後に行うものをいい、治療中の検査費用は周術期治療費や抗がん剤治療費に含まれています。最後に、抗がん剤の治療費については、患者さんの体重や身長により抗がん剤の使用量が変わるため、その治療費には差が生じることにご注意ください(本サイトの「抗がん剤の治療費」参照)。
まず、小細胞肺がんの治療のうち抗がん剤治療を行う場合の費用については、「抗がん剤の治療費」のうち「肺がんの抗がん剤治療」の項をご参考ください。ここでは、放射線治療後に抗がん剤治療を行う「放射線化学療法」の費用について解説します。さて、放射線化学療法は放射線治療と抗がん剤治療(1コース)を入院中に行い、その後1週間程度の入院による抗がん剤治療を3コース行うものです。使用する抗がん剤がシスプラチンとエトポシドであるとして治療費計算を行っています。上の図では、最初の抗がん剤治療の費用は放射線化学療法入院費用の中に含まれており、2・3・4コース目の抗がん剤治療分が「抗がん剤費用」として示されています。抗がん剤治療の1コースは4週間かかりますので、73万円という費用は3ヶ月分です。毎月24万円程度かかることになり、その自己負担分は毎月7万円弱発生します。高額療養費制度の限度額は毎月8万円強ですから、この制度が丁度使えない水準になります。入院期間が1日増減すると総治療費は2万2千円上下します。なお、小細胞がんは脳に転移することがよくあるために、脳への転移が疑われる場合には予防的に放射線照射を行います。すべての患者さんがこの治療を受けるわけではありません。予防的全脳照射まで行う場合の治療費の自己負担額は1年目42万円(うち周術期に9万円)、2年目6万円となります。
次に非小細胞がんの治療についてご説明します。早期であれば一般の切除手術の他にレーザー治療、胸腔鏡下切除手術、放射線治療、重粒子線治療等と多様な選択肢があります。患者さんの状態により複数の治療選択肢から治療法を選べるはずです。一方、進行がんになると、放射線治療、抗がん剤治療、および両者を組み合わせた治療が主となります。ここでは早期がん治療を念頭に、胸腔鏡手術、重粒子線治療、および手術(肺葉切除術*)後に再発予防の抗がん剤治療を行う事例についてご説明します。
胸腔鏡手術では手術の技術料が評価されるため、開胸手術の場合と比べて周術期の治療費がやや高くなります。周術期の治療費について高額療養費制度が利用できるはずです。自己負担額は初年度11万円(うち周術期に9万円)、2年目5万円、3年目以降は毎年2万円程度です。入院期間が1日長く、あるいは短くなる毎に総治療費が2万円上下します。
重粒子線治療(炭素線治療)の周術期治療費は先進医療(技術料)の自己負担分が314万円と大きく、その他に入院に伴う保険診療の負担も発生します。後者については、将来的に治療期間が短くなり、あるいは外来による治療が可能になることで負担は軽くなると期待されます。3年目以降の定期検査の費用については、検査項目が減少し、かつ年2回の検査になることでさらに少なくなります。
肺葉切除手術後に再発予防の抗がん剤治療を行う場合、周術期治療費については高額療養費制度が利用できるはずです。しかし、手術後4ヶ月間にわたり行う抗がん剤治療(カルボプラチンとパクリタキセル併用。詳しくは「抗がん剤の治療費」のうち「肺がんの抗がん剤治療費」を参照ください)の治療費について、治療費総額は手術費用同様高額になりますが、1ヶ月あたりの治療費とその自己負担額は平均すると小さくなります。そのために高額療養費精度の利用ができません。結果として初年度の自己負担分は合計すると47万円程度になります。なお、入院期間が1日長く、あるいは短くなる毎に総医療費は2万円上下します。
最後に、「放射線治療」の治療費について1点補足しておきます。肺がんの場合、放射線治療は有力な治療選択肢のひとつであり、本サイトにおいてもU期・V期の主要な治療選択肢のひとつとしてご紹介しています。そのうち、U期・V期において同じ「放射線治療」として記載されながら周術期の治療費を見ると、金額が異なることにお気付きになるかと思います。少し専門的すぎるかと思いますが、これは診療ガイドラインに沿って、U期では「過分割照射」、V期では「通常線量分割照射」を行うことを前提に計算しているためです。過分割照射では1日2回照射するために1日あたりの治療費が高くなり、結果としてU期放射線治療の方がV期放射線治療に比べ治療費が高くなっているわけです。