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治療費の自己負担額

(公的保険と患者自己負担)

nissen,LIFE

がんの治療において、殆どの治療は公的保険の範囲内で行われていますが、新しい高度医療や一部の薬・器具等は公的保険でカバーされていません。今後医療技術進歩のスピードがますます加速することが予想されますが、その一方、日本の財政事情を考えると、公的保険でカバーできる範囲を技術進歩のスピードに合わせて拡大することは難しい状況にあります。そのため、公的保険でカバーされないがん治療の範囲はさらに増えるものと予想しています。

公的保険との関わりがあるがん治療費の自己負担のパターンは、概ね次のようになります。②、③、④には、公的保険のカバーする治療とそうでない治療が混在しています。

公的保険が利用できる場合(下図緑色の部分のみ可能)

公的保険が利用できる場合
注)公的保険の患者自己負担割合を30%としていますが、患者さんの年齢により負担割合は変わります。さらに、後で述べる「高額療養費制度」の利用により最終的な負担は軽減されます。

がんの治療で問題になるのは③や④のケースです。③は、公的保険の使える治療と使えない治療をいっしょに受けることになるため、本来公的保険が使える部分についてもすべて100%患者さんの負担となります。これを「混合診療禁止の原則」といいます。判断が分かれるのは③のようなケースで、保険が使える治療と使えない治療について、異なる診療科を受診する場合にどうなるかという点です。
例えば、同じ病院の放射線腫瘍科で保険の使えない治療を受け、外科で保険の使える薬を処方してもらうような場合です。保険が使える治療と使えない治療をうける場合でも、④のケースのように医療機関が異なると、前者については保険の利用を認めているのが実情のようです。
ともあれ、保険の使える治療と使えない治療を同じ時期に受ける場合、医療機関により対応が異なることがあるようです。治療を開始する前に公的保険がどこまで使えるかどうか、受診される医療機関で説明を聴くことをお勧めします。

(患者自己負担と高額療養費制度)

次に、患者自己負担についてです。上記のうち公的保険が利用できる治療の自己負担額については高額療養費制度により上限があります。その概要は次のとおりです。

公的保険を利用できる治療の自己負担額が毎月一定額を超えると、超えた額について後日還付請求をすると返還されます。自己負担額の上限は、所得や年齢により計算式が決まっています。
先進医療技術料や未承認抗がん剤・差額ベッド代等の保険の使えない治療の費用についてはすべて患者の負担で 上限がなく、この計算式に含めて一度支払った自己負担分の返還を求めることはできません。
柔道整復師、あんま、はり等で支払った自己負担額で公的保険が利用できるものを計算式に含めることができます。
所得・年齢区分による自己負担限度額の計算式は原則として下表のとおりです。ここでは負担額の概算のみ示しています。実際には、医療費の総額により限度額が確定します。

高額療養費の月別自己負担限度額(平成20年5月20日現在)

  外来・入院区分 所得による区分
上位所得者* 一般 低所得者*
70歳未満の方 外来+入院(個人ごと) 150,000円強 80,000円強 35,400円
70〜74歳の方 外来(個人ごと) 44,000円 24,600円 8,000円 15,000円
外来+入院(世帯ごと) 80,000円 62,100円 24,600円
注)上位所得者とは概ね年収500万円〜600万円の方をいいます。また、70〜74歳の低所得の区分は低所得者TとUの2つに区分されます。Uについては、年金年80万円以下等の方を含みます。
なお、70歳以上で、所得が「一般」区分の方の自己負担限度額について、平成20年4月から1年間は、外来+入院は44,400円、外来は12,000円に据え置かれています。

例えば、60歳で月収60万円の患者さんのある月の治療費合計が100万円としますと、その患者さんは医療機関の窓口で一時的に30万円を支払います。この方の自己負担限度額は上の表より15万円強ですから高額療養費制度を利用して、限度額を超えて負担した15万円弱の還付請求を行うことが可能です。

高額療養費制度では、このほか、期間を限定した特別な措置や同一世帯で複数の高額自己負担が発生した場合の限度額の特例、さらに1年間で高額療養費を4回以上請求する場合の特例等さまざまな特例があり、日ごろ病気に縁のない方には極めて複雑な内容となっています。

がん治療を受ける方は高額療養費制度を使うことがほぼ確実ですから、治療に先立ち、がん拠点病院等に設置されている「がん相談支援センター」や各医療機関のソーシャルワーカーに相談されることをお勧めします。

限度額の利用にあたり注意すべき点は、一連の治療に関する自己負担の総額について限度額があるのではなく、あくまで月別の限度額を表しているということです。例えば、月収60万円の60歳の方は上位所得者として毎月最大で15万円強しか自己負担しなくてよいということになりますが、同じ治療費が発生した場合でも治療が月をまたぐかどうか、言い換えると、治療費が複数月に分割されるかどうかによって自己負担の総額には下記のとおり大きな差が生じます。
すなわち、治療が2ヶ月間にわたった場合、1ヶ月単位で自己負担額を計算すると、この方の例(ケース1)では1ヶ月あたりの自己負担額がそれぞれ15万円で、各月の自己負担額の上限を超えないために、公的保険から全く還付がありません。高額療養費制度を利用するメリットはありません。
一方、すべての治療を1ヶ月間で完了させる(ケース2)と1ヶ月あたりの自己負担額は限度額を15万円超えることになり、その分が還付されることになります。治療は一般的に初期治療(「周術期」といいます)の間に総治療費の70〜80%が発生するといわれていますので、月の初めに入院して治療開始する場合と月の半ばに入院して治療開始する場合とでは自己負担額に大きな差が生じることがあります。これから治療を予定されている方は、ぜひ、入院前に実質的な自己負担額がどの程度の金額になるか医療機関とご相談ください。

治療の発生時期による自己負担額の違い

ケース1 1月と2月にそれぞれ50万円ずつ治療費が発生した場合 合計30万円
ケース2 1月中に治療が開始・終了し、治療費総額が100万円となった場合 合計15万円

(便利な制度:限度額適用認定証)

高額療養費の請求には「高額療養費支給申請書」を作成するほか、添付書類を整える手間もかかります。さらに、一時的にではあるにせよお金が戻ってくるまで治療費を自分で立て替えなければならないという経済的な負担もありました。
こうした患者さんの不便さ、一時立替の負担を緩和するために便利な仕組みが登場しました。「限度額適用認定証」といいます。がん治療のように、高額な入院治療を行うことが当初よりわかっている場合、「限度額適用認定証」を入手し、自己負担分の請求がある前に医療機関にこの認定証を提示すると、高額な自己負担額を一時的に立て替える必要がなくなります。限度額分だけ支払えばその月の残りの分の支払いは不要になります。 治療をご予定の方は、ぜひ保険者に問い合わせ、限度額適用認定証を入手のうえ活用することをお勧めします。

*注)保険者とは、大企業に勤務している場合:健康保険組合、官庁や学校にお勤めの場合:共済組合、自社の健康保険組合がない、または業界の健康保険組合に入っていない中小企業に勤務している場合:全国健康保険協会、自営業等の方の場合:市区町村(国民健康保険課)をいいます。この他に船員保険組合、国民健康保険組合等もあります。

(介護を受ける方が同じ世帯にいる場合の患者自己負担額)

同一世帯に介護保険を受けている方がいる場合、1年間の医療保険と介護保険の自己負担額の合計額に上限が設定されました(平成20年4月より)。下記限度額を超えた額が「高額介護合算療養費」として戻ってきます。高額療養費制度は1ヶ月ごとに計算しますが、この制度は1年間の合計額で計算しますのでご注意ください。なお、高額療養費制度を毎月利用した後に、1年間の医療費自己負担額と介護保険の自己負担額を合計して高額介護合算療養費制度を利用することも可能です。

高額介護合算療養費の自己負担限度額(世帯単位)

  所得による区分
上位所得者 一般 低所得者
T U
70歳未満の方 126万円 67万円 34万円
70歳以上75歳未満 67万円 62万円 19万円 31万円
75歳以上 67万円 56万円 19万円 31万円
注)平成20年4月から平成21年7月までの限度額は、この制度の導入初年度につき計算期間が16ヶ月となりますので、上記表の限度額を1.33(4/3)倍した金額となります。

(自己負担の具体例)

一般的な話は以上のとおりです。そこで最後に具体的な事例を3つ取り上げて、どれほど自己負担が発生するか見てみます。1つ目は結腸がん(大腸がん)U期の標準的な治療、2つ目は乳がんU期の治療で、公的保険は利用できるが高額な治療費が発生するケース、3つ目は非小細胞肺がんT期で先進医療を利用するケースを取り上げます。3つのケースすべてについて、他に治療を要する病気を持っていないこと、がん治療の経過が順調に進むことを前提にしています。
ちなみに、この3事例の月別治療費は、本サイトの治療費計算機能を使って得られる結果とすべて一致しています。入院した際の食事料や交通費、差額ベッド代などは含まれていない点ご注意ください。

事例1:

60歳男性、結腸がん(ステージU期)、結腸切除手術(入院17日)、退院後再発予防のため外来で注射用抗がん剤による治療を6ヶ月間実施、その後2年程度3ヶ月に1度、さらに2年間は6ヶ月に一度と定期的に検査を行い、再発がない場合を想定します。月収40万円で、一般世帯に属するものとします。保険者(健康保険組合等)から特別な医療費の助成・補助はなく自己負担割合は3割とします。

この方の5年間の総治療費は約250万円となります。5年間の1ヶ月毎の治療費推計は次の表のとおりです。

表1-1:月別治療費推計

(単位:千円)
  1ヶ月 2ヶ月 3ヶ月 4ヶ月 5ヶ月 6ヶ月 7ヶ月 8ヶ月 9ヶ月 10ヶ月 11ヶ月 12ヶ月
1年目 1011 215 113 215 113 215 121 0 0 11 0 0 2,014
2年目 107 0 0 11 0 0 19 0 0 11 0 0 148
3年目 107 0 0 11 0 0 19 0 0 11 0 0 148
4年目 45 0 0 0 0 0 19 0 0 0 0 0 64
5年目 45 0 0 0 0 0 19 0 0 0 0 0 64

この方の場合、1年目の初月の治療費について高額療養費制度が利用できますので自己負担分の推計は次のようになります。

表1-2:月別自己負担額推計

(単位:千円)
  1ヶ月 2ヶ月 3ヶ月 4ヶ月 5ヶ月 6ヶ月 7ヶ月 8ヶ月 9ヶ月 10ヶ月 11ヶ月 12ヶ月
1年目 88 65 34 65 34 65 36 0 0 3 0 0 388
2年目 32 0 0 3 0 0 6 0 0 3 0 0 44
3年目 32 0 0 3 0 0 6 0 0 3 0 0 44
4年目 14 0 0 0 0 0 6 0 0 0 0 0 19
5年目 14 0 0 0 0 0 6 0 0 0 0 0 19

治療から半年強の治療費について対応すれば、その後は際立って大きな支出はないことがわかります。

事例2:

50歳女性、乳がん(ステージU期)で乳房温存手術(入院7日)を受けます。この方はトラスツズマブという抗がん剤とホルモン剤が使用可能である(事前の検査にて効果が期待できるタイプの方であることが判明している)とします。退院後再発予防のため外来で複数種類の注射用抗がん剤による治療を6ヶ月間実施、その後温存した部位に放射線照射を行います。さらに注射用抗がん剤(9ヶ月間)とホルモン剤による治療(5年間)行います。この間、併せて定期的な検査を行います。世帯月収60万円で、上位世帯に属するものとします。保険者(健康保険組合等)から特別な医療費の助成・補助はなく、自己負担割合は3割とします。

この方の5年間の総治療費は約650万円となります。5年間の1ヶ月毎の治療費推計は次の表のとおりです。

表2-1:月別治療費推計

(単位:千円)
  1ヶ月 2ヶ月 3ヶ月 4ヶ月 5ヶ月 6ヶ月 7ヶ月 8ヶ月 9ヶ月 10ヶ月 11ヶ月 12ヶ月
1年目 659 175 91 91 450 418 424 221 161 379 230 230 3,529
2年目 417 230 230 347 230 230 133 0 0 127 0 0 1,944
3年目 197 0 0 127 0 0 133 0 0 45 0 0 502
4年目 115 0 0 45 0 0 52 0 0 45 0 0 257
5年目 115 0 0 45 0 0 52 0 0 45 0 0 257

この方の高額療養費制度利用の目安となる1ヶ月の自己負担額上限は15万円(総治療費で50万円相当)ですので、1年目の1ヶ月目が該当します。以上を反映した自己負担額の推計が下表です。

表2-2:月別自己負担額推計

(単位:千円)
  1ヶ月 2ヶ月 3ヶ月 4ヶ月 5ヶ月 6ヶ月 7ヶ月 8ヶ月 9ヶ月 10ヶ月 11ヶ月 12ヶ月
1年目 152 53 27 27 135 125 127 66 48 114 69 69 1,013
2年目 125 69 69 104 69 69 40 0 0 38 0 0 583
3年目 59 0 0 38 0 0 40 0 0 14 0 0 151
4年目 35 0 0 14 0 0 16 0 0 14 0 0 77
5年目 35 0 0 14 0 0 16 0 0 14 0 0 77

平成22年4月に公的保険の「値段」が改定になったため総治療費は700万円から650万円に減少しました。しかし、自己負担額についてみると5年間の総額は190万円程度で大きな変化はなく、逆に1年目の負担額は数万円増加しています。これは、月々の総治療費が減少し高額療養費制度を利用できる機会が減ったためです。

仮にこの方の所得水準が一般世帯である場合、自己負担額は次のようになります。

表2-3:月別自己負担額推計

(単位:千円)
  1ヶ月 2ヶ月 3ヶ月 4ヶ月 5ヶ月 6ヶ月 7ヶ月 8ヶ月 9ヶ月 10ヶ月 11ヶ月 12ヶ月
1年目 84 53 27 27 82 82 44 44 44 44 44 44 621
2年目 44 44 44 44 44 44 40 0 0 11 0 0 318
3年目 44 0 0 40 0 0 42 0 0 14 0 0 140
4年目 34 0 0 14 0 0 15 0 0 14 0 0 77
5年目 34 0 0 14 0 0 15 0 0 14 0 0 77

12ヶ月間に4回以上高額療養費制度を利用した場合、4回目以降の自己負担限度額は44,400円になり、1年目の7ヶ月目以降、約12ヶ月間ほぼ毎月、低い方の限度額が適用されることになります。

整理すると、5年間における治療費総額650万円に対し、上位世帯の自己負担総額191万円、一般世帯のそれは123万円となります。

事例3:

60歳男性、非小細胞肺がん(ステージT期)、重粒子線治療 (入院21日)、退院後定期的に検査を行い、再発がない場合を想定します。月収40万円で、一般世帯に属するものとします。保険者(健康保険組合等)から特別な医療費の助成・補助はなく、自己負担割合は3割とします。

この方の5年間の総治療費は約420万円となります。5年間の1ヶ月毎の治療費推計は次の表のとおりです。

表3-1:月別治療費推計

(単位:千円)
  1ヶ月 2ヶ月 3ヶ月 4ヶ月 5ヶ月 6ヶ月 7ヶ月 8ヶ月 9ヶ月 10ヶ月 11ヶ月 12ヶ月
1年目 3656 54 49 0 0 13 0 0 45 0 0 11 3,828
2年目 0 0 123 0 0 11 0 0 11 0 0 13 158
3年目 0 0 67 0 0 0 0 0 13 0 0 0 80
4年目 0 0 67 0 0 0 0 0 13 0 0 0 80
5年目 0 0 45 0 0 0 0 0 13 0 0 0 58

この治療については1年目1ヶ月の費用分を準備できるかどうかがポントになります。まず、366万円のうち、314万円は先進医療の技術料ですので公的保険が使えません。残りの52万円については公的保険も高額療養費制度も利用できます。先進医療の技術料と公的保険の自己負担3割分を合わせ、322万円が初月の負担になります。詳細は下表のとおりです。

表3-2:月別自己負担額推計

(単位:千円)
  1ヶ月 2ヶ月 3ヶ月 4ヶ月 5ヶ月 6ヶ月 7ヶ月 8ヶ月 9ヶ月 10ヶ月 11ヶ月 12ヶ月
1年目 3,223 16 15 0 0 4 0 0 14 0 0 3 3,274
2年目 0 0 37 0 0 3 0 0 3 0 0 4 47
3年目 0 0 20 0 0 0 0 0 4 0 0 0 24
4年目 0 0 20 0 0 0 0 0 4 0 0 0 24
5年目 0 0 14 0 0 0 0 0 4 0 0 0 17

以上の事例観察を含め、治療費の自己負担について次のようなことがいえます。

  • 治療の内容により、治療開始時に大きな費用負担が発生し、長くて2年程度の重い自己 負担が発生する場合があります。特に、先進医療や高価な薬・材料等を使う治療を選択 する場合、自己負担額について事前に医療機関とご相談することをお勧めします。
  • 治療費総額において事例1と2の差をもたらした大きな要因は、抗体医薬(分子標的薬)と呼ばれる費用の高い抗がん剤を再発予防目的で使用するところにあります。最近の新しい抗がん剤の開発はこの抗体医薬を中心に進められていることから、2のような事例が特殊なものと考えない方がよいと思います。むしろ、今後は当面、こうした高額な薬や材料を使用することが治療の主流を占めるようになると考えていた方が無難です。
  • がんの治療費用について考える場合、入院時にいくらかかるかという視点だけではなく、再発予防治療や定期検査を含め、長期間この病と付き合わなければならないことを念頭において、貯蓄や民間保険等を含めて治療費の準備を行うことが必要です。
  • 最後に、高額療養費や仕事を休職せざるを得なくなった時の公的制度の利用についてアドバイスしてくれる専門家は社会保険労務士です。自分で調査することも勿論重要ですが、公的制度の利用について速やかに適切なアドバイスを期待する場合、専門家を活用することをお勧めします。
なお、自分の収入や治療費の状況から、実際に高額療養費制度がどの程度使えるか試算してみたいという方は次のサイトもご参照ください。

「高額療養費制度お助けガイド」

(医療費控除)

一度支払った治療費の自己負担分を取り戻す方法に「医療費控除」の利用があります。所得税を計算するベースとなる課税所得から負担した医療費を費用として控除できる制度です。確定申告の手続きを得て、税金が還付される形で支払った医療費の自己負担分を取り戻すことができます。

まず、控除できる医療費とは、次に示すような治療に要した費用のうち実際に支払った費用(自己負担分)をいいます。扶養している(同一家計の)配偶者、子供の治療に要した費用も含めることができます。

医師、歯科医師、はり師、きゅう師、柔道整復師などによる治療・施術に対する費用
先進医療の技術料や自由診療に基づく治療の費用
医師の処方箋をもとに調剤薬局で薬を購入した際の自己負担分や街の薬局で購入したかぜ薬・胃腸薬などの一般医薬品の購入費用
助産婦による出産の介助費用
保健師や看護師等による療養上の世話に対する支払い
介護老人福祉施設や介護老人保健施設に支払った施設サービス料(施設の種類により全額控除できるものと2分の1控除できるものがあります)
患者の通院費(交通費)や医師に往診してもらう送迎費
義手・義足・松葉づえ、補聴器などの購入費 等

上記①・②・③が、がんの治療費を構成する主要な項目になるかと思いますが、対象となる治療に公的保険が使えるかどうかに拘わらず、所得税に関する医療費控除は可能であることがわかります。また、通院・受診に伴う交通費も控除できます。

逆に医療費控除の対象とならない費用は次のとおりです。

i) 美容整形の費用
ii) 健康診断の費用
iii) 自家用車で通院する場合のガソリン代や駐車料金
iv) 親族に対する療養上の世話に対する支払い

上記の他に入院時の身の回り品購入費、医師への謝礼等も控除の対象外です。 控除できない費用のうちi) については、上記Aで自由診療に基づく治療の費用が控除できるのと対照的です。ii)は治療に要した費用ではないので控除できないというもので、病気の予防目的に使う費用も控除できません。また、iii)はFと、iv)はDと比較すると控除のルールが見えてくるようです。 ただ、控除できるかどうか判断に苦しむものもあります。がんの治療を自由診療で行った場合についてもAに含まれ広く控除の対象となりますが、例えば、乳房切除後の再建や頭頸部がん切除後の顔面再建等の費用はどのような取り扱いになるのでしょうか。金額もかなり大きなもの(50万円‐150万円程度)ですので控除を受けたい項目のはずです。明確な線引きは難しいのですが、乳房再建を例にとりますと、形状の再建として手術前の元の状態に近づける場合は医療費控除の対象となります。一方、この際ついでに豊胸まで行うということになれば控除対象外となる可能性があります。一般的に、再建にあたり自分の組織(皮膚、腹部や背部の筋肉、あるいは腹部の脂肪等)を使用する場合には、公的保険も利用可能で、かつ医療費控除の対象になります。一方、人工物(シリコン等)を使用する場合には公的保険の適用がなく、医療費控除の適用にもならない場合があります。対象となる再建方法に関し、治療費の額、公的保険の利用、医療費控除の有無等について、事前に医療機関と確認してください。

控除額を計算するにあたり注意すべき点は、高額療養費制度を利用して治療費が返ってきた場合や民間の医療保険、生命保険等に加入していて医療保険金や入院保険金を受け取った場合には、すべて医療費控除を行う対象となる額から差し引かなければならないことです。例えば、治療費は200万円だが、高額療養費制度を利用したので実際に負担したのは50万円で済んだ。しかも、がん共済の診断給付金が50万円支払われたので実質的な負担はなかったという場合、この方の治療に関する現金の出入りは±0ですので、医療費控除を受けることができません。

次に、医療費控除ができる方の要件については次のとおりです。

所得税を払っていること
1年間の医療費の支払いが10万円を超える、または1年間の医療費の支払いが所得金額の5%を超えること

所得税を支払っていない方に控除はできませんし、自己負担額が少額の場合も原則として控除できないということです。

医療費控除は税金を取り戻す仕組みですので、手続きを進めるにあたり、いくら実際に税金を支払ったか、治療費を負担したかを証明する書類を残しておかなければなりません。具体的には、給与の源泉徴収票、医療費明細や領収書が必要になります。民間保険の保険金を受け取った際には受け取り金額がわかるものを用意します。

最後に、医療費控除できる額と実際に戻ってくる金額のイメージについてです。
控除できる額は、いままでの説明でも触れたとおり、次のような式で表すことができます。

医療費控除額 支払った医療費総額
    − 生命保険金等の受取・補填額あるいは高額療養費制度による治療費の返戻
    − 10万円(所得が200万円未満の方は所得の5%)

控除できる金額の上限は200万円です。計算期間は1年間(1月〜12月が計算期間)ですから、控除の対象となる医療費が毎年200万円発生すれば毎年控除できます。

医療費控除の手続きを行って実際に戻ってくる税金の額は次の式で計算します。

実際に戻ってくる金額(還付金) 医療費控除額 × 所得※に応じた税率
  ※注) 給与総額ではなく、世帯の事情に合わせてさまざまな控除(基礎控除、配偶者控除、扶養控除等)を差し引いた後の税金計算のベースとなる課税所得金額となります。

課税所得の水準により戻ってくる還付金の金額は異なりますが、課税所得金額が300万円前後であればかかった医療費控除額の10%弱、500万円であれば20%弱、1000万円前後であれば30%弱が目安です。課税所得が高くなるほど、所得税率も高くなりますので、その税率に従って戻ってくる金額も多くなります。
事例として、150万円程度の医療費控除額になった場合、課税所得金額が500万円であれば28万円程度、課税所得金額1000万円強であれば46万円程度戻ってくると期待できます。

医療費控除は、がんの治療を受ける場合、とりわけ先進医療や自由診療を治療の選択肢として検討する場合には、頭に入れておくべき制度といえるでしょう。

(対策)

がん治療費の自己負担額にご関心をお持ちになる方には、さまざまな事情があるはずです。 本サイトでは、次のような方々に本サイトの情報をご利用いただいていると想定しています。

1) 治療方法を決定し、あるいは治療中・治療が終了する予定の方
2) がんの疑い、あるいは確定診断を受けたためにこれから治療方法を決定し、治療費の支払いに直面する方
3) 将来、がんにかかった際に納得できる、十分な治療を受けることができるようにしておきたいという方
 

まず、1)の方は、医療機関から請求書が届くのを待つ状態にあり、当面負担しなければならない自己負担額については概ね把握できるはずです。
2)の方は、どの治療方法を選ぶかで当面の治療費が決まりますし、自己負担額も固まります。治療の選択にあたり確かに自分のサイフのことを心配しなければなりませんが、通常は、ベストな、納得できる治療法を選ぶはずです。選んだ治療法について、本サイトに該当する選択肢があれば、サイトの計算結果と自分の所得や健康保険組合の付加給付を調べることで実質的な負担額を予想できるはずです。
一方、3)の方はこれから将来に向かって、ご自分の方針に沿ってさまざまな準備が可能です。とはいえ、実際にがんになるかどうかわかりませんし、仮になるとしてもどのような種類のがんになるのか予想はできません。将来のがん治療に備え、事前にどの程度のお金を準備しておけば大丈夫とは断言できないのが実情です。

以上のように、がんの治療費自己負担額について、短期的な予測は可能ですが、長期を見据えた信頼できる予測は困難であるのが実情です。そこで、対策もこうした事情をはっきり理解し、当面の対応と将来の不確実性を見据えた対応に分けて考えなければなりません。
当面の対応は1)や2)の方のオプションになりますし、将来の不確実性を見据えた対応は3)の方が主となります。
まず、1)と2)の方は、既に「がん」というリスクが現実的に発生している、あるいは発生しつつありますので、将来発生するリスクに対する備えである民間の保険や共済等に入ることはできません。そのため、現在持っている資産(貯蓄等)や保険契約、あるいは公的保険制度等をいかに活用して治療費を捻出するか、負担を軽減するかを考えなければなりません。治療のために使用可能と思われる「武器」を具体的にリストアップすると次のようなものがあります。

公的保険制度:高額療養費制度、保険者の付加給付、その他公的助成制度
民間がん保険・医療保険(生命保険の特約を含む)
貯蓄を含む金融資産
土地・建物等不動産
死亡保険付生命保険
保証ローン
無担保ローン
 

①について、日本は国民皆保険制度をとっていますので理屈の上ではすべての方が利用可能なはずです。まず、公的保険制度の利用そのものが治療費対策の最大の武器であることは疑いありません。公的保険制度には高額療養費制度もありますし、患者さんやご家族の自己負担軽減に大きく寄与しています。さらに、大手企業の健康保険組合や中小・中堅の同業者が集まって作った健康保険組合、さらに共済組合等に加入されている場合には、手厚い付加給付が支給されることがあります(給付内容は保険者毎に異なります)。高額療養費制度の利用で月額8万円あるいは15万円が自己負担の限度額という予想になる場合でも、そうした保険者の組合員であれば「月額3万円を患者負担の上限とする」といった支援が準備されていることがあります。自己負担額の個別相談にも乗ってくれるはずですので、健康保険組合や市区町村といった「保険者」を最大限活用することをまず考えましょう。

次に、公的保険で不足する部分を補ってくれるのが②の民間医療保険です。がんにかかった方、診断された方、疑いのある方は新たに加入できませんので、既に加入している保険について給付範囲を確認することに留まります。

③の説明は不要でしょう。豊富な金融資産があれば自己負担額に関する心配はありません。

④は、自宅以外であれば売却して換金し、治療費に充当できます。但し、売却には長時間かかりますし、不動産譲渡所得に対する課税への配慮も必要です。
また、自宅であっても、不動産に担保を設定して通常より低い利息で貸付を行っている金融機関があります。がん治療の分野では不動産担保金融はポピュラーではありませんが、介護分野では「リバースモーゲージ」と呼ばれるスキームが既に存在します。信託銀行に相談されるとよいと思います。ただ、一般論でいうと、日本の金融機関はがんというと直ぐに「死亡」=ハイリスクという風に直線的に理解し、病気・病期の持つリスクに応じて柔軟に利息を設定しないばかりか、ローンそのものへと踏み切らないところが殆どです。教育ローンという言葉は耳にされたことがあるかと思いますが、美容や審美歯科治療を除き「疾病ローン」のような治療に要する費用を対象にしたローンについて聞いたことがないはずです。がん治療についていうと、唯一、重粒子線の治療を行う患者さんに対し、当該治療施設のある自治体の金融機関が、その治療施設と提携してローンを提供している例があるだけです。これは、重粒子線の先進医療技術料が300万円前後と高額で、かつ自治体の税金を使って施設が建設されたために地元の方に配慮したものです。そのため、当該施設で重粒子線治療を希望するすべての患者さんにローンを提供しているわけではありませんし、ローンの実行にあたり第三者の保証を求められることもあります。

⑤については、多くの生命保険については(貯蓄タイプのものを除く)、既に払い込んだ生命保険料の範囲内で、住宅ローンの利息よりもやや高い程度の利息でローンを利用できるはずです。それ以外の活用手段としては、いわゆる生命保険の「買取」や生命保険を担保としたローンが考えられます。
前者については、米国で生命保険に加入していたエイズの患者さんに対し、その治療費に充てることを目的に始まりました。第三者が患者さんに一時金を支払う一方、患者さんの代わりに生命保険料を払い続け、患者さんが亡くなった際に患者さんに代って保険金を第三者が受け取るという仕組みです。患者さんは受け取った一時金を治療費の支払いに利用します。一方、第三者は保険金を割り引いて患者さんに支払うことにより利益を得ます。例えば、1000万円の死亡保険付生命保険について900万円の一時金を患者さんに支払い、1万円の月額保険料を20ヶ月支払った後で患者さんが亡くなり第三者が保険金を受け取るとします。患者さんは900万円を治療に使います。第三者は20ヶ月で80万円(1000万円−900万円−20万円)の利得を得ることになります。この仕組みは、日本でも法的には実行可能ですが、患者さんが希望しても生命保険会社の承諾がないと実行できませんし(この判断は2006年10月の最高裁判所判決で確定しています)、お金に窮した弱い立場にある患者さんを保護する仕組みが固まっていませんので生命保険会社の承諾が得られるに至っておらず、まだ普及していません。
一方、生命保険を担保とするローンは、「質権」や「譲渡担保」を設定することで可能になります。これも生命保険会社の協力が必要ですが、患者さんが亡くなってローンを完済できない場合であっても、その一部を生命保険金によって返済に回す仕組みです。生命保険の買取に比べると、一時所得への課税がなくなるので税金面で有利になるはずです。
いずれも、死亡保険付生命保険に加入している場合であって、自分が死亡した後で保険金を受け取る家族がいないような場合、その保険金を生きているうちに自分自身の治療のために使いたいという患者さんのニーズはあるはずです。

⑥は、家族や第三者に保証人になってもらいお金を借りる仕組みです。

⑦は、消費者金融やフリーローンと呼ばれているものです。担保や保証人を探す必要がなく使い勝手は良いでしょうが、利息が高いのが特徴です。固定収入が期待できず、長期の療養を必要とするがん患者さんの必要資金調達手段としては不適であると思われます。過去、ローンの条件として生命保険への加入を求めるものが多くあり、ローンを借りた多くの方が自殺して、借主に強制的に加入させた生命保険の保険金でローンを弁済させるという実態がマスコミで取り上げられ大きな社会問題となりました。

次に、将来がんになった時の備えとしては、一般的には民間のがん保険や医療保険に加入する方法があります。日本では先に述べたとおり公的保険制度が充実していますが、一部の治療には保険の範囲内であってもかなり高額な自己負担が発生します。その治療を続けることに伴う出費が、乗用車1台を購入することに十分匹敵するようなケースもあります。さらに、再発予防、あるいは再発・進行したがんの治療にあたり、有効な治療選択肢のすべてが保険診療でカバーされているわけではありませんし、国の保険財政がパンクしかけている現在、これから登場する新しい医療・高度な医療について、すべて公的保険でカバーできると期待するのは現実的ではありません。一方、この対策として青天井の出費を想定して高額な民間保険に複数加入するのも月々の保険料が家計を圧迫する原因となります。家族構成やライフステージに合わせて貯蓄や保険を組み合わせた方法を検討すべきでしょう。

具体的な保険商品について、本サイトで推奨するものは特にありません。各人の事情に応じ、その方針に沿って加入されるとよいと思います。個人により保有する資産の状況や不確実性に対する態度が異なりますので、一概にどれがベストな保険であるとはいえません。ここでは、医療保険・がん保険を選択するにあたり、がん治療の実態と将来を見据え、次の3点だけアドバイスさせていただきます。

がん年齢を考えて保険商品を選択すること。具体的には、女性は40代、50代にかかるリスクが最も高くなるがん(例:乳がん)があること、男性は高齢化に比例して殆どのがんのリスクが高くなることを考えて保険商品を検討すること。

入院期間が短くなり、抗がん剤治療・放射線治療も外来(通院)において行われる流れにあることを踏まえて保険商品を検討すべきこと。すなわち、外来(通院)により治療を行っても、入院で治療を行っても同様な給付が行われる内容になっていること。

がん治療は、周術期、再発予防治療期、リハビリ期に分けたうえで、それぞれの時期の負担を想定し保険商品を検討すること。周術期の手術や放射線治療だけで治療が終わるわけではなく、使用する抗がん剤によっては周術期よりも多額の自己負担が発生することがあり、リハビリについてもリンパドレナージのように公的保険が使えないものが多くあることを理解しておくこと。
 

最後に繰り返しになりますが、がん年齢になった方々は新しい保険を検討したくても保険料が高くなり(がんは高齢になるほど発生リスクが高くなりますので、保険料は当然高くなります)、新しい保険に加入するのはなかなか大変です。一度がんにかかった方もがん保険に入る道が実質的に閉ざされています。
本サイトの運営者(がん治療費研究会)では、がん年齢の方々のこうした事情、さらに日本では医療保険やがん保険よりも生命保険の加入率が高い状態が長期に亘り続いてきたといった事実認識に基づき、高額化する治療費をどうやって準備するか(調達するか)という問題について検討を続け、いくつかのアイデアの実現に向けて動いています。本サイトでご紹介した資金調達選択肢のアイデアについても、どのようにすれば健全な形で導入・運営できるかという視点で検討しています。加えて、生体肝移植のように治療費が非常に高額で個々人の自助努力では解決できないようなケースへの対応策についても取り組んでいます。

がん治療にあたっては可能性のあるあらゆる選択肢について単独・併用という観点で検討が必要なように、その資金調達についても同様であるべきと考えています。できる限り早期に、ある地域で複数の医療機関と連携しつつ解決案を具現化し、本サイトでご紹介していきたいと考えています。
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