これまでの一律的ながん治療に変わって、患者さん個人個人の遺伝子の違いに応じて、最適な薬や治療を選択し、行なっていこうとする「がんゲノム医療」が注目されています。
今後のがん治療を大きく変えていくことが期待されている、がんゲノム医療とはどんなものか、またこの治療について費用面から見ていきたいと思います。
がん細胞の発生原因は「遺伝子」の変異
がんゲノム医療を知るためには、まずがん細胞が生まれる原因を知る必要があります。私達の体は、37兆個もの細胞で構成されていますが、もともとがん細胞のもとが存在するわけではありません。
しかしながら、生活していく中で体に悪影響を及ぼす様々な原因、例えばウィルスの感染や食品、タバコなどに含まれる有害物質、強い紫外線や放射線などの影響によって、正常な細胞の遺伝子に傷が付き、異常な細胞が生まれることがあります。こうした遺伝子の傷や異常な細胞の発生が段階的に重なって、この異常増殖し、年数を経てがんになると考えられています。がん発生の根本原因は、遺伝子の異常なのです。
異常が生じている遺伝子を突き止め、その結果に応じた薬を投与
このように発がんや、がん悪性化の直接的な原因になる様々な遺伝子(がん関連遺伝子)を突き止めて、それぞれの患者さんの遺伝子異常に応じて、適切な薬を投与するのが、がんゲノム医療です。
ゲノム(genome)とは、『遺伝子』という意味のgene(ジーン)と総体(-ome)から成る言葉で、遺伝子全体の情報を表しています。
人ひとりの全ゲノムを解析するために、15年前は数千億円の費用と13年もの年月がかかっていましたが、現在ではたった1日、費用も数万円で解析できるようになったことで、こうした医療が現実のものになってきました。
一律の治療から、各個人に応じた個別化医療が可能に
これまでのがん治療は、一人ひとりの細胞を遺伝子レベルで解析するといったことが困難だったために、例えば肺がんにはこの薬、大腸がんにはこの薬というように、ある疾患の患者さんには一律の治療を行なってきました。しかし、患者さんごとの遺伝子変異の解析が可能になったことで、がんの部位に関わらず、遺伝子異常に応じた薬を選択して投与する「個別化医療」へと変わりつつあります。
遺伝子異常を調べるための、がん遺伝子パネル検査
がんゲノム医療を行うためには、まずはじめに、患者さんの遺伝子を調べる必要があります。しかも、患者さんのどこにがんに関連する遺伝子の異常があるかを見つけるためには、1つ、2つではなく、広く網羅的に遺伝子を調べなくてはなりません。それを行うのが、「遺伝子パネル検査」です。
2018年7月現在、国内で遺伝子パネル検査はまだ保険適用になっておらず、検査は自費で受ける必要があります。
また、2018年4月には、国立がん研究センター中央病院において、先進医療として遺伝子パネル検査が受けられるようになっています。
先進医療の対象者は、もう標準治療がない患者さんに限られており、検査を受けるために約50万円の自己負担が必要となります。国立がん研究センター中央病院は2019年9月までに200〜350症例で研究を実施し、早ければ2019年度中にこの検査の保険適用を目指すとしています。
がんゲノム医療のメリットと今後の課題
がんゲノム医療のメリットは以下のとおりです。
- 予め効果が予測できる
- 効かない治療を避けられる
これまでの治療は、効果が出るかどうかはやってみないとわからない、ある意味宝くじを買うような医療でした。しかし、がんゲノム医療は、効果が見込める患者さんのみに、効果が見込める治療を行うため、100%ではないものの、これまでより格段に高い精度で効果が予測できます。そして、治療効果がないのに副作用だけ被るということを避けられる可能性も高まることは、患者さんにとっては非常に大きなメリットでしょう。
一方で課題もあります。遺伝子パネル検査で異常が見つかっても、現在、異常に対応できる薬はたった10〜15%しか存在しないということです。
しかし、医療は日進月歩です。診断時に薬が見つからなくとも、新薬が開発される可能性もあり、また、そうした薬の開発のためにも、がん患者さんの遺伝子情報の蓄積が重要な役割を果たすはずです。